日本歯科インプラント器材協議会

コラム

2017/04/03

鳥の虫歯

4月の桜の時期を待つ間、川べりでは色々な鳥が春の準備をします。京都の賀茂川ではマガモ、アイガモ、カルガモが草や藻を食べて川を掃除し、オオバンやキンクロハジロ、カイツブリが水中に増え始めた魚や貝を漁り、アオサギやコサギ、ダイサギがコイやナマズを丸のみにして体力を蓄えます。アオサギのオスはそのクチバシを赤く染めて求愛の準備をしますが、上空ではトビが行楽客のお弁当やパンを狙って旋回しています。子育てを控えてエサを取るのに必死なトビは、ときには猛禽類の本領を発揮してコイを捕まえて巣に持ちかえり、パートナーに分け与えます。川にはコイやナマズの他の魚も増え始め、カワウやカワアイサは潜水してこれらを捕まえて丸のみにします。
写真:キンクロハジロとカワアイサ(手前)

色々な鳥たちがいますが、翼で飛ぶことの他に、これらの鳥たちに共通していることがあります。歯が無いのです。鳥類は体を軽くするため、進化の過程で歯をなくしました。鳥類は、爬虫類から恐竜が進化してさらにその亜種として進化してきました。因みにティラノサウルスは、鳥類が登場した白亜紀を代表する恐竜ですが、実は鳥類とは非常に近縁で、骨の組織の構造や呼吸の仕組みが鳥類とほぼ同じなのに加えて、幼少期は鳥と同じような羽毛に覆われていたそうです。地上に留まった恐竜類と鳥類の相違点はもちろん「翼があるかないか」ですが、もう一つの重要な相違点は「歯があるかないか」です。地上で無敵だったティラノサウルスは空を飛ぶ必要はなかったので強大な顎と歯を維持して翼をもちませんでしたが、空中に活路を求めた鳥類は翼のほうを選んで歯とそれを維持する周囲組織を捨てたのです。

しかし、恒温動物で激しい飛翔運動を頻繁に行う鳥類は「食べる」ことがより一層必要になりますので、食べ物や獲物の捕捉と咀嚼という機能は別の器官で維持しなければなりません。そこで、鳥類は砂嚢(すなずりのこと)を発達させてここで咀嚼を行い、唇を硬いクチバシに変化させてそれらを色々な形状にすることで食べ物の把持や捕捉をするようになりました。

では、歯を持たない鳥類は、虫歯にもならないのでしょうか? 実はそうではありません。近年、賀茂川の鳥たちはエサの少なくなる冬を地元の人や観光客が与えてくれるパンやお菓子で過ごす傾向が強くなっているそうです。京都市によると、秋まではその硬くてナイフのように鋭利なクチバシでエビ、ザリガニ、魚や他の鳥類を捕食していたのに、冬の間にすっかりパン食にハマってしまい、栄養の偏りと柔らかい食物への慣れのせいで春にはその大事なクチバシが弱くボロボロになり、真っすぐ歩くことさえ出来なくなってしまったサギが数羽いたそうです。
人間の世界でも、例えば江戸時代の後期にはビタミンやたんぱく質の豊富な玄米ではなくほとんど炭水化物だけの白米が食べられるようになり、長崎を通じて多く輸入されるようになった砂糖をつかった食べ物も増えた結果、虫歯や脚気に悩む人が急増したそうです。このように、虫歯は文明化の負の産物として広く知られていますが、文明の負の影響が人間の社会の周辺で生きている自然の生き物に及ぶことを私たちは、この言わば「鳥の虫歯」に見ることができます。ともあれ、京都の賀茂川や御所にはまだまだ素晴らしい生態系が残っています。この生態系を破壊しないようにエチケットを守り、自然がこれからもずっと残っていってくれるようにしていきたいものです。(H.H)

図2_キセキレイ

写真:キセキレイ

図3_アオサギ

写真:アオサギ