日本歯科インプラント器材協議会

専門家からのメッセージ

インプラント治療における歯科技工士の役割

日本歯科インプラント器材協議会のインタビュー第3弾として、大阪歯科大学歯科技工士専門学校学校長の末瀬一彦先生に「インプラント治療における歯科技工士の役割」についてお聞きいたします。

末瀬 一彦 先生

末瀬 一彦 先生

歯科技工士専門学校学校長

略歴

  • 歯科技工士専門学校学校長

「歯科技工士」のお仕事についてお聞かせください。

歯科技工士は国家資格であり、その仕事は歯科医師の指示に基づいて入れ歯や矯正装置・被せ物などを作ることです。私の知人が「衛生士は歯科医院の花であり、技工士は歯科医院の看板である。」と言っていましたが、まったくその通りだと思います。歯科技工士の作る物の良し悪しで、治療に対する患者さんの満足度は大きく左右されるのです。歯科技工士の仕事は、患者さんからは見えない技工所と言う場所で行われるので、ともすれば裏方の仕事と捉えられてしまいます。しかし、決してそうではなく患者さんのお口の中に入る人工の歯などを作る者として、もっと患者さんと直接接するべきだと考えています。

歯科技工士は歯科医師とどのような連携や役割分担をされていますか。

末瀬一彦先生

歯科医師の役割は患者さんの口腔内での処置であり、歯科技工士の役割は患者さんの口腔外での作業になります。例えばインプラント治療では、歯科医師の役割は診査・診断から始まり、外科手術、インプラントの埋め込み、そして歯型を取ります。歯科技工士は、この歯型をもとに人工の歯を製作します。歯科医師は製作された人工の歯を実際に患者さんの口腔内に装着し噛み合わせなどをチェックして、修正が必要だと判断すれば歯科技工士に修正の指示をします。こうして出来上がった人工の歯が、患者さんのお口の中に装着されます。

インプラント治療の場合、一般の治療に比べ複雑な過程を経るので、最初の診査・診断をかなり入念に行います。従来は、この診査・診断を歯科医師のみで行ってきましたが、近年はCTの普及に伴い歯科技工士も加わるケースが増えてきています。現在は多くの歯科医院が、CT画像やその他のデータから患者さんの骨の状態を判断して、インプラントの種類・術式・材料・方法を決めています。CTデータをもとにインプラントの埋め込みから、歯の製作、装着までをコンピュータでシミュレーションすることが可能になり、最終製作物を作る歯科技工士がアドバイスを求められるケースが急速に増加しています。

また、歯科技工士は歯科衛生士とも連携する必要があります。患者さんのことを一番知っているのは歯科衛生士なので、その情報を歯科技工士に伝えていくことが、良質な治療のために重要です。また、歯科技工士は製作した歯に対して、このようにケアをしてほしいなどの情報を歯科衛生士に伝えていくことも大切です。

一般的な被せ物とインプラントの被せ物との違いについて教えてください。

末瀬一彦先生

最大の違いは、一般の被せ物は天然歯に装着するという点です。天然歯には骨との間に歯根膜というクッションの役割を果たすものがあり、被せ物の製作に多少の融通が利きます。歯根膜は鋭敏なので過大な荷重が加われば痛みを感じ、荷重が加わり続ければ組織が破壊されます。これに対してインプラントの場合、噛み合わせや歯軋りによって過大な荷重がかかっても、痛みを感じる度合いは天然歯と比較するとはるかに少なくなります。そのため、ひとたびインプラント周囲の組織破壊が始まると急速に進行する場合があるので、インプラントへ装着した被せ物は、定期的なチェックを怠らないようにすることが重要です。

もう一つの違いは、インプラントではクッションの機能である歯根膜を持たないため、その上に装着される被せ物には相当な精密さを要求されるということです。また、インプラントと被せ物との連結に使用されるパーツの加工にも非常に高い精度が要求されます。

インプラントの被せ物に使う材料について教えてください。

末瀬一彦先生

インプラントに装着する被せ物と、一般の天然歯に使う被せ物の材料に違いはありません。被せ物の材料は、向かい合った歯の材質に合わせて選択するのが基本だと考えています。

これまでは金属製の被せ物が主流でしたが、その後セラミック製のものが現れ、そのセラミック製の中でも強度が高く壊れにくいジルコニアが近年脚光をあびています。ジルコニアは非常に良い材料ですが、万能の材料ではありませんし、すべての症例に対しても使える、というわけではありません。ジルコニアが望ましい症例としては、被せ物に十分な強度を与えなければならない場合や、患者さんが歯軋りをせず、向かい合った歯に金属が入っていない場合などです。

ジルコニアや金属の「壊れにくい」という特性から起こるトラブルへ対応の経験から、私は長持ちしすぎる被せ物よりも「定期的に交換が必要である」という前提の被せ物を作る方が良いと考えています。歯科治療における被せ物は、車に例えるとタイヤのようなものです。被せ物が磨り減って当たり前ということを、インプラント治療を始める前に患者さんにも同じような認識を持っていただけるように説明しています。

インプラントの被せ物作りの最新技術について教えてください。

末瀬一彦先生

近年、CAD/CAM(コンピュータで設計し、加工する技術)などの登場により、歯科治療にもデジタル化が急速に普及しています。このCAD/CAMで製作することで、被せ物などの加工精度は飛躍的に向上し、今後の歯科治療に必須の要素であると言えます。

CAD/CAMの一つ目の利点は、インプラントの被せ物が患者さんのお口に入る際に、何時・何処で・誰によって・どんな材料を使って作られたのかというトレーサビリティー(追跡が可能なこと)を患者さんに容易に提供できることです。
二つ目は、被せ物を製作する材料の安定性の問題です

CAD/CAMで製作される被せ物は、均質かつ安全性を保証されたブロックから削りだされるため、材質に関する安全性は常に一定の規格によって担保されていると言って良いものです。つまりCAD/CAMを用いた被せ物は、新しい時代の歯科治療を受ける患者さんの信頼を得るのに必要なものです。